なぜ割引は足し算できないのか?——割合で習ったあの話

なぜ割引は足し算できないのか? 算数

秋の衣替えの季節、近所の洋服屋さんで「夏物売り尽くし」のワゴンを見つけました。値札には赤いシールで「表示価格から2割引」。さらにレジ横には「本日限り、会計時にさらに1割引!」の張り紙。

手に取ったのは1,000円のカーディガン。「2割引と1割引で、合わせて3割引。つまり700円ね」と、頭の中でお財布の準備をしてレジへ向かいました。ところが、レジに表示された金額は720円。

一瞬「あれ、打ち間違い?」と思いましたが、店員さんの計算は正しかったのです。20円の差。小さな金額ですが、なんだか狐につままれたような気分になりませんか。

「2割+1割=3割」。この当たり前が、お店では通用しないのです。

値札が並ぶ店先の野菜と果物

実はこれ、小学5年生の算数「割合」の話なんです

覚えていらっしゃるでしょうか。小学5年生の算数で習う「割合」。「もとにする量」「比べる量」「割合」という3つの言葉が出てきて、「く・も・わ」のような図を描いて覚えた方もいるかもしれません。

教員時代、この単元は毎年いちばん頭を悩ませるところでした。計算そのものは掛け算と割り算だけ。なのに、子どもたちの手がぴたりと止まるのです。「先生、どっちで割ればいいの?」「どれが『もとにする量』なの?」。そんな声が教室のあちこちから上がりました。

私は黒板に大きく「割合は、何を1とみるかで決まる」と書き、授業のたびに子どもたちと声に出して読んでいました。実は、冒頭のカーディガンの20円の謎は、この一行にすべて詰まっています。

割合でつまずいたあの日の「?」は、大人になってレジの前でもう一度やってきます。

お皿にのったいちごのショートケーキのひと切れ

「割引の基準」がこっそり入れ替わっている

では、カーディガンの計算を順番に追ってみましょう。

  1. まず2割引:1,000円の2割は200円。1,000円-200円=800円
  2. 次に1割引:ここでの「1割」は、800円の1割。つまり80円。800円-80円=720円

ポイントは2回目の割引です。私たちは無意識に「最初の1,000円の1割(100円)」を引くつもりでいました。でも実際は「2割引したあとの800円」が新しいもとにする量になっていたのです。基準が1,000円から800円に、こっそり入れ替わっていたわけですね。

これを掛け算で書くと、もっとすっきりします。

  • 2割引=「0.8倍にする」(10のうち8が残る)
  • 1割引=「0.9倍にする」(10のうち9が残る)
  • 続けて行うと:0.8 × 0.9 = 0.72(10のうち7.2が残る)

つまり「2割引してから1割引」は、全体で見ると2割8分引き(28%引き)。3割引より少しだけ控えめな割引なのです。割引は「引き算の足し算」ではなく、「掛け算の掛け算」だったのですね。

身近なたとえで言えば、ホールケーキを思い浮かべてください。最初に全体の2割を切り分けて食べました。残りは8割。次に「残りの1割」を切り分けます。この1割は、最初のホールケーキの1割よりも小さいですよね。だって、もうケーキ自体が小さくなっているのですから。

割合の「%」は、いつも「何かの」%。その「何か」を見失うと、数字は私たちをだまします。

じゃあ、これも同じ原理では? 暮らしの中の「割合の落とし穴」

この「基準が入れ替わる」しくみに気づくと、身の回りのあちこちで同じ現象が見えてきます。

例1:10%値上げして、10%値下げしたら元に戻る?

1,000円の商品が10%値上げされて1,100円に。その後「10%値下げセール」で元に戻る……と思いきや、1,100円の10%は110円。1,100円-110円=990円です。掛け算で書けば1.1 × 0.9 = 0.99。元の値段より1%安くなります。上がるときと下がるときで、「もとにする量」が違うからです。

例2:「20%ポイント還元」と「20%引き」は同じ?

1,000円の買い物をして200ポイントもらう場合と、最初から800円で買える場合。どちらも「200円分お得」に見えますが、ポイント還元では1,000円を払って1,200円分の価値を手に入れています。1,000 ÷ 1,200 = 約0.83。実質は約17%引きなのです。「何に対しての20%か」を意識するだけで、お買い物の見え方が変わります。

例3:半分に減ったものを元に戻すには「2倍」が必要

たとえば、あるお店の売上が前の年に比べて50%減ったとします。翌年「50%アップ」しても元には戻りません。100が50になり、50の50%は25なので、75止まり。元の100に戻るには、50から見て100%アップ(2倍)が必要です。ニュースで「前年比◯%増」と聞いたときは、「その前年はどうだったか」まで確かめたくなりますね。

例4:割引券を使う順番は関係ある?

「2割引してから1割引」と「1割引してから2割引」。どちらがお得でしょうか。答えはどちらも同じ720円。0.8 × 0.9 も 0.9 × 0.8 も0.72だからです。ところが「300円引きクーポン」と「2割引」の組み合わせになると話は別。先に2割引すると800-300=500円、先に300円引くと700 × 0.8=560円。定額の割引は、先に%割引を済ませてから使うほうがお得になります(お店のルールで順番が決まっている場合もあります)。

「%」を見たら、心の中で「何の?」と一言つぶやく。それだけで、数字にだまされにくくなります。

レシートと電卓を見ながら計算する手元

「もとにする量」は、落とし穴を避けるための言葉だった

あの日、カーディガンを買って帰った私は、レシートを眺めながら「1000 × 0.8 × 0.9 = 720」と頭の中で計算し直してみました。そして、ふと気づいたのです。

算数の授業で、なぜあれほどしつこく「もとにする量はどれ?」と問いかけられたのか。それは公式を覚えるためではなく、「割合は、基準が変われば同じ数字でも意味が変わる」ということを体に染み込ませるためだったのですね。

「比べる量 = もとにする量 × 割合」。子どもの頃は、ただの呪文のように唱えていたこの式。実は、セールの値札にも、ポイント還元にも、ニュースの「前年比」にも使える、暮らしの羅針盤だったのです。

割合の単元の最後に、ある男の子が言ってくれた言葉を今でも覚えています。「先生、割合って『だれと比べるか』のことなんだね」。あのとき私は大きな花丸をつけましたが、大人になった今の私にも、その花丸は必要だったようです。

公式は忘れても、「何を1とみるか」を問う習慣は、一生ものの財産です。

次回予告

次回も、暮らしの中の「なぜ?」をひとつ取り上げて、学校で習ったあの話とつないでみます。どうぞお楽しみに。

「わからなかった」を「わかった」に変えるのに、年齢の締め切りはありません。

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より深く知りたい方へ

割合は、小学校算数の第5学年で扱われる内容です。文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』では、二つの数量の関係を割合でみる考え方を大切にし、日常の場面と結びつけて理解することが示されています。お子さんの教科書をのぞいてみると、「◯%引き」の買い物の問題が載っていることも。親子で一緒に解いてみるのも楽しいですよ。

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